建築・アートの所感ノート

建築とアートの作品、展覧会、書籍などの感想を共有します。

庄内町ギャラリー温泉 町湯

0.設計者
 2014年の年末にできた「庄内町ギャラリー温泉 町湯」に行ってきた。設計は高谷時彦さんで、鶴岡市の「まちキネ」(2013年 日本建築学会 作品選奨)も「藤沢周平記念館」も設計している。遊佐でも防災センターを設計するらしく、庄内全域であちこち建つ。高谷さんは酒田にある東北公益文科大学で特任教授をしている。それで庄内地域に強い?建築家なのだろう。地域の文化・気象特性などを、よく知っている建築家に設計してもらうのは良いことだ。 

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▲外観「庄内町ギャラリー温泉 町湯」庄内町, 2014年
 

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▲「まちなかキネマ(まちキネ)」鶴岡市, 2010年
 

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▲「藤沢周平記念館」鶴岡市, 2010年

 

 

1.敷地
 「町湯」の名前のとおり、まちなかにあって立地がよい。隣地に農協のスーパーがある。その隣にお城を模したキッチュなデザインの建築があった。あとで近くの酒店で聞くところによると、「余目温泉 梵天」だったそうだ。農協が運営していたらしい (1989-2006)。奇抜でバブル期らしいデザインである。庄内の日帰り温泉は、田んぼの真ん中にある場合が多いので、「町湯」の場所が特徴になる。
 
 「町湯」の建築はモダンなデザインで、高谷さんが槇文彦さんの元で働いていたことがよくわかる。一言で表すと「品がよい」デザインだ。「梵天」とは全然違う。「梵天」は今で言う、アイコニック・アーキテクチャで、R.ヴェンチューリでいう「ダック」だ。一方、「町湯」はモダニズムの正統派。
 

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 ▲手前「町湯」、奥にスーパーと「梵天」がみえる
 
 
2.プラン
 平面で最もユニークなのが、浴室の真ん中に湯船が配置されていることだ。壁に寄せて配置するパタンが非常に多いが、「町湯」は違う。足湯では、こたつのように口の字型はよくある。そのロの字型の足湯のように、語らいの場を意識して設計したのではないか。いいアイデアだ。わたしが入浴している間は、実際におしゃべりしている人たちはいなかったが、常連さんたちが集まれば意図したとおりになるだろう。浴槽は深めで、もう少し浅い方が身体に優しく、ゆっくりできて、わたしとしては好きだ。
 
 庄内地方の温泉は、社交場として機能している。わたしの通う温泉で、最も顕著にそれがあるのが「湯野浜温泉 下区共同浴場」だ。シャワーが6つ程度の小さな温泉で、近所の人たちが毎日利用している。身体が弱い80代のおじいちゃんを70代のおじいちゃんが、フロ道具を運んであげたりして手助けしている。温泉で知り合いと話しをするのが好きな人もいるはずだ。高齢者が多く、おそらく社会との繋がりが弱まっているので、温泉は家族以外と交流できる貴重な場所である。「長沼温泉 ぽっぽの湯」においても、サウナで話しをしている人が多さから、人々の繋がりの深さを感じる。
 
 「町湯」では浴室外のロビー空間にも、十分な休める場所がある。ユニークなのが、通り土間か縁側の様な空間があることだ。調べてみると「土縁(つちえん)ギャラリー」というらしい。ここに腰掛けることが想定される。冬場はタイルに直に足をつけるのは冷たそうだ。もしかしたら床暖房が入っていたかもしれない。夏場は冷たさが気持ちよさそうだ。
 
 このように他の温泉の状況を考えると、地域が求める温泉に対して「町湯」のコンセプトは的を射ている。納得のいくデザインだ。
 

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▲「土縁(つちえん)ギャラリー」
 

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▲土縁(つちえん)の例「旧風間家住宅」鶴岡市
(『日本の建築空間』新建築 2005年11月 臨時増刊にも紹介されている)
 
 
3 素材
 木材を多用していて暖かい印象になっている。特に浴室は木材の心地よい薫りがした。近隣の温泉では、木材を使っているところは無い。そこが魅力的だ。ただ、素材の特性上、浴槽の縁に使っている木材に黒ずみや薄緑色に変色している箇所があった。やむを得ないのだろうが、メンテナンスが大変そうである。
 

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▲内観:木材が多く使用される
 
 
4.設備
 浴室のシャワーヘッド、腰掛け、桶、シャンプーケースなど細かいところまで、デザインに対する気配りがされていた。一番わかりやすいのがフォントだ。現代的なフォントを使っていて、建築と調和している。現代建築には、現代らしいフォントが似合う。
 
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▲現代的なフォント1
 

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▲現代的なフォント2

 

 
5.まとめ
 「町湯」はちょうど良い規模の社交場として活躍するかっこいい温泉だ。「梵天」は規模が大きすぎて、経営を続けることが難しくなったのではないだろうか。そういう意味では、ちょうど良い規模の「町湯」は、人口減少が世間で騒がれる中、無理せず長期間継続して運営ができるであろう。
 木材のイイ香り漂う空間で、知り合いと会えばおしゃべりをして、帰りに隣のスーパーで買い物までできる。愛される地域の温泉に育って欲しい。
 
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▲食堂
 

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▲日没後の外観
 
※入浴料 450円
ラスベガス (SD選書 143)

ラスベガス (SD選書 143)