建築・アートの所感ノート

建築とアートの作品、展覧会、書籍などの感想を共有します。

読書感想:磯崎 新『磯崎 新 建築論集 全8巻』「第5巻「わ」の所在――列島に交錯する他社の視線」, 岩波書店

 第Ⅲ章以降(「床の現象学」除く)は建築作品を題材とした空間分析だった。google 画像検索をして、Evernote に画像を貼付ながら読み進めた。中谷礼仁の解説によると次の3つの論文は『建築行脚』シリーズから選ばれたそうだ。

「両性具有の夢――ヴィッラ・アドリアーナ
「排除の手法――ル・トロネ修道院」
「闇に浮かぶ黄金――サン・ヴィターレ聖堂」

 西洋建築史の知識が十分でないわたしにとって、図版がなくて読みにくかった。その原因はおそらく写真が多用された書籍から本文だけを切り取ったからだ。とりあえず『建築行脚』を読みたくなった。今は『磯崎新の建築談義』として出版されているようだ。磯崎は多くの建築を本文中に引用する。話しをわかりやすくするためだと思われるが、その建築に関する知識が無いと理解できない。そのため google 画像検索をする。「磯崎による建築史」の勉強をしているようだった。第4巻を読んだときも同様に建築史に対する欲求が高まった。
 日本語で web 検索をしてから現地語を探して、それを copy & paste して画像検索を更にかける。外観、内観、平面図も全部簡単に見つけられる。それらを Evernote に貼付ていくと、講義を受けた後にできるノートのようになった。ゆっくりと立ち止まりながら、画像を参照して読み進めていくのが楽しかった。

 その中でも、ル・トロネ修道院は必ず行かねばならないと思った。建築を好きになり始めた頃、安藤忠雄がオススメしていた『荒い石』を読んだ。そんな思い出があるので、ル・トロネ修道院に対して思い入れが強い。ル・コルビュジエも何度も訪れ、実測もしたそうだ。それが ラ・トゥーレット修道院の平面、ロンシャンの礼拝堂の壁に繋がる。
 床、壁、構造材の全てが同じ荒い石で構成されているという。そして暗さ、反響する音を体験してみたい。

 ロマネスク様式の建築は以前から好きだったが、ビザンチン様式の建築が今回、焦点が当てられていたので気になる存在になってきた。これまで夏休みなどで各国の首都を中心に訪れて、建築・アートを見てまわっていた。当然、現代建築も含まれる。歴史的に価値が定まった建築をもっと多くみた方が、より楽しいかもしれない。好きな建築家であるルイス・カーンも40代後半にイタリアで中世都市を訪れている。

 磯崎は歴史を参照して、自己の立ち位置を考える。それが第Ⅴ部 第2章「ディオニュソス」に現れる。今回はパッラーディオと磯崎を対比させていた。現代を過去と繋げて表現していることが面白い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《 目次 》
Ⅰ メビウスの輪=倭=和=「わ」
     和様化と外部(初出1991年)
Ⅱ 世紀末のカルチュラル・ターン
     1.「退行」と「擬態」(初出2000年)
     2.〈やつし〉と〈もどき〉(初出2010年)
Ⅲ 加算と減算
     1.両性具有の夢――ヴィッラ・アドリアーナ(初出1981年)
     2.排除の手法――ル・トロネ修道院(初出1980年)
Ⅳ アンビギュイティ
     1.闇に浮かぶ黄金――サン・ヴィターレ聖堂(初出1988年)
     2.
Ⅴ 振る舞う身体
     1.ユカの現象学――坐の文化史(初出1982年)
     2.ディオニュソス――「テアトロ・オリンピコ」と「楕円堂」(書き下ろし2009年)
解説:中谷礼仁