建築・アートの所感ノート

建築とアートの作品、展覧会、書籍などの感想を共有します。

講演会 三分一 博志「風、水、太陽」TOTOギャラリー間, 2016.4.15, イイノホール

  三分一(さんぶいち)は以前から気になっていた建築家だ。本人が話す姿をみられて嬉しかった。淡々とした話し方であったが、自らの建築に対する強い意思を感じた。講演中は何度も自然の美しさを礼賛していた。そのような思想が「地球と一体化する建築」「建築がその場所の一部になることを目指す」という三分一の言葉に表れる。
 
 水や風などを「動く素材」と考えて、建築を設計している。地球を循環する水は、存在する場所に応じて形態を変える。海=液体、雲=気体、雪・氷=固体というように変わる。それに合わせるように、植物は形態を変える。森林、高山、砂漠など気候条件によって、それぞれの場所に適応する。建築も同様に自然環境に適したカタチがあるという。
 
 
「風」《直島ホール》2015年
  このプロジェクトは風に着目している。敷地周辺(本村)の古い民家は、座敷が南北軸の両方に縁側と庭に挟まれている。本村の卓越風は南風で、そちらの方向には棚田と池がある。夏季は水の上を通り冷やされた風が住宅に入るようになっている。両側に庭があることにより風が通り抜ける。隣地の住宅にも風は続いていく。このような調査から、ホール内の空気が通風により、ゆったりと循環される設計であった(風圧を利用)。建築の文化が継承されている。
 外観は屋根、庇のエッジが効いていて、内部は漆喰で柔らかな空間になっている。シャープな外観はかっこよく、内外の対比が面白い。
 
 
「水」《六甲枝垂れ》2010年
  「地球と一体化する」という考え方が明確に現れている。敷地付近では冬季に樹氷がみられるそうで、樹氷を建築につける設計をした。樹氷がつきやすいカタチがあって、それを調査されている。景色と同様に建築も雪化粧をする。是非とも冬に行ってみたいが、いかにも寒そうだ。
 
 
「太陽」《犬島精錬所美術館》2008年
  今まで数多くの美術館へ行ったが、ここはその中でも最も感動した美術館の一つだ。夏季は煙突効果により地中の冷たい空気が館内を冷却し、冬季はガラス張りの部屋で太陽の熱を受けた空気が館内を暖める。建築設備を全く使わずに、自然の力だけで人間が快適に過ごせる環境をつくり出している。トンネルでは照明を使わずに、自然光を鏡によって導き入れている。光に向かって真っ直ぐ歩いて行くのだが、実際には鏡があるので複雑な通路になっている。
 
 最近、よく話題になっている近代産業遺産(富岡製糸場八幡製鉄所軍艦島など)を、非常に上手く活用した現代建築である。犬島は石切場から精錬所へと産業構造の変化に翻弄された歴史を持つ。そこに三分一はカラミ煉瓦を使うなど歴史を継承しつつ、不変的な自然を利用した建築をつくった。
 
 
  「直島の集落から400年前のメッセージをもらった。それを次の世代に伝えたい。」と三分一は語る。このように時代を超える文化のうつわとしての建築を、設計している意気込みが感じられた。このような素晴らしい建築がどんどん増えていって欲しい。
 
 講演内容は、三分一 博志『三分一 博志 瀬戸内の建築』 TOTO出版, 2016.3 に沿ってされたので、適宜参照されたい。まずは、展覧会に行きたい。それから、直島、宮島、六甲へ遊びに行こう。
 
 

三分一博志 瀬戸内の建築

三分一博志 瀬戸内の建築

 

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