建築・アートの所感ノート

建築とアートの作品、展覧会、書籍などの感想を共有します。

読書感想:磯崎 新『磯崎 新 建築論集 全8巻』「第6巻ユートピアはどこへ――社会的制度としての建築家」, 岩波書店

レオニドフの「太陽の都市」
 気持ちが良いほど理想的な計画がいくつも紹介されて、図面をみてみるといずれもカッコ良い。まさに〈ユートピア〉の世界だった。磯崎が推す「太陽の都市 (Sun City)」は画像があまり見つからなかった。それまで計画してきた建築を全部まとめた計画だという。
 1920年代につくられた「『ノン・レファレンシャル』で『ノン・レプリゼーンテーショナル』な《建築》」という思想が、論理の閉鎖性によって1930年頃には限界が見えていたのでは?と述べられている。過激な考え方は破綻するのも早いということだろうか。
  e.g. Lenin Institute in Moscow (1927) 卒業設計
  構成主義者の重要な標語「機会を模倣するな、それを設計する技師を見習え」


テラーニの「ダンテウム」
 テラーニの建築はヒロイックでカッコイイ。「ダンテウム」はダンテの神曲から考案された建築だ。桂離宮が和歌から設計されたのと同じ。Internet で CG画像がいくつかあって、とてもわかりやすかった。平面図はコンポジションが美しい。黄金比が使われている。実際に見てみたいアンビルト作品だ。


八田利也の「小住宅設計ばんざい」
 皮肉が満載で面白かった。建築界で評判になったことに納得した。50年前の文章であるが、全然古びておらず、現代まで同じ問題が続いている。


《建築の解体》症候群
 この論文が本書で最もヴォリュームがあった。60年代の総括として、まとめられていた。これまでの〈CIAM〉に集まっていた建築家たちとは異なる時代になったことが説明している。1920年代のアヴァンギャルドたちは、形体操作に研究を重ねたが、60年代以降は建築のコンセプチュアル性が重要視されるようになったということだろう。

 

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《 目次 》
Ⅰ 近代国家の建築家――テクノクラート・アーキテクト
     1950年の梁思成と丹下健三(書き下ろし)
Ⅱ ユートピアがまだあった頃
     1.フーリエの「ファランステール」(アソシエーショニズム)(書き下ろし)
     2.レオニドフの「太陽の都市」(コミュニズム)(初出1989年)
     3.テラーニの「ダンテウム」(ファシズム)(初出1990年)
     4.セドリック・プライスの「シンクベルト」(ソーシャリズム)(初出1975年)
Ⅲ ユートピアに翻弄された戦後日本
     1.八田利也の「小住宅設計ばんざい」(コンシューマリズム)(初出1961年)
     2.神代雄一郎の「巨大建築批判」(コモディフィケーション)(初出2001年)
     3.宮内康の「建造物宣言」(ラディカリズム)(初出2000年)
Ⅳ ユートピアが死んだ頃
     《建築の解体》症候群――主題の不在(初出1975年)
Ⅴ 現代社会の建築家――システム・アーキテクト
     1.建築・都市・国家=合体装置(メガストラクチュア)(初出2011年)
     2.都市はアーキテクチュアか(書き下ろし)
解説:藤村龍至